【実録】義妹生活

事実は小説より奇なり

英詩人バイロンがそのようなことを言った。あるいは書いた。らしい。

……誰だよ、英詩人バイロンって……。

多くの人はそのように思われるのではないか。何故私はそのようなことを知っているのかというと、検索したからである。本当に知っているかどうか問われると、本当は知りません。全く知らないよ。
バイロンがどのような詩人であったかということについて全く知らないし、本当に彼の発言なのかどうか真偽は不明であり、もっというと「彼」ではなく「彼女」かもしれない。そのような、バイロンについてのほんの一部分を切り取った知識でもって冒頭いきなり引用するのは愚かであるかもしれないが、いちいち自分の話す言葉の由来、語源・ソースを調べた上でモノを書かねばならないとなると、そんな面倒くさいことやってられない。時間がいくらあっても足りない。
ライターは絶滅してしまうことだろう。

もっとも……「事実は小説より奇なり」という言葉をここで初めて聞いた!たしかにそうかもしれないね!事実って、小説よりも奇妙だね!
……なんてことを言う人はおそらく稀である。この言葉は誰もが知っていて当たり前と考えて良さそうだ。そして、誰がその言葉を発言したかということに関しては、正直気にする人はいないだろう。

「事実は小説より奇なり」
「は?なんだと、ソースは?」

なんて言う者がいたとしたら、それこそ愚かである。重要なのはこのフレーズに共感できるかどうかだ。

義妹、いますか?

義理の妹、いますか?
その確率としては決して低くはない。

例えば私の弟が結婚し、そのお相手A子さんが私よりも年下である場合は義妹である。今はいなくても将来的に出来るかもしれない。感覚としては新たに追加された親戚、といった感覚だ。

さてそこで、そのA子さんとのロマンスを私が望んでいるとしたら鬼畜だ。また、A子さんが私とのロマンスを望んでいるということであれば更に鬼畜であり、計画性が疑われる深刻な状況だ。苛烈極まる生活。舞台は法定へ。倫理的にも法的にも逸脱。家庭崩壊。人格崩壊。

源頼朝と源義経との静御前の取り合いは、おそらくは実の兄弟で一人の女性を取り合った歴史上最大規模の「兄弟喧嘩」である。現代では起こり得ない。そんなことが起こる可能性があるものだから法律が制定され、スマートに解決するようになっている。

義妹テンプレート

前述した通り、通常義妹は親戚という認識だが、別の形で義妹が出来ることがある。
シングルファザーとシングルマザーの結婚、あるいは同棲という形だ。
それぞれの連れ子が男の子、女の子、と異性であり、男の子のほうが年上であればお見事!

使い古された義妹テンプレートの完成だ。

このような形で義妹ができるということは、自分の兄弟のお嫁さんという形での義妹が出来ることよりも遥かに低い確率となるだろう。

さて、本題といこう。

【実録】義妹生活

私が唯一知っている限り、ひとパターンのみ義妹テンプレートを確認したことがある。自分はその家族とは縁もゆかりも無いのだが、多少関わった。

わかりやすいように、父方と母方とそれぞれ苗字を仮に付与する。

相浦家・加藤家

「相浦チチ男」 は一級建築士。彼には三人の子が居た。数年前に離婚し、長男(十七歳)、長女、次女との四人暮らしだった。

「加藤ハハ子」 は看護師。彼女には三人の子が居た。数年前に離婚し、長女(十七歳)、次女、長男との四人暮らしだった。

相浦と加藤とは知り合って間もなく結婚することとなった。
相浦は「僕ァ、建築士だからさァ、巨大な家(チチ男ハウス)を作れるよォ!」と言って一軒家を建てた。そして結婚を機に家族全員、ひとつ屋根の下で暮らすことになった。

もう一度明記するがこの時点で、相浦の長男は十七歳、加藤の長女も十七歳である。

他にも下の子がいる。

私と相浦タケシ、加藤モモコ

ひとつ屋根の下での生活が始まった。八人家族。
この生活が始まる数ヶ月前に私(二十一歳)は長男、相浦タケシ(十七歳)とは知り合っており、同じバンドメンバーとなっていた。
であるから義妹テンプレートが発動して新しい生活スタイルとなるということは聞いていた。その話を聞いて、そんなことが本当に有り得るのか?
と、率直に驚いたのを覚えている。

長女加藤モモコ(十七歳) もタケシと同じく高校二年生だ。
同じ屋根の下となって、タケシが長男でその義妹がモモコとなる。
モモコちゃんは明るく活発な子で学業優秀。吹奏楽部の部長を務めていた。部員百人を超す名門校だ。

二〇二四年現在からすると十八年前の話だけれども……現在でこそ多様性社会ということだが、今、考えてもやはり無理があるように思える。違和感なく受け入れることは出来ないのではないか。多様性云々ではない。

相浦家と加藤家について非難するつもりは全くない。何か事情があったからかもしれない。

現代でもやはり特殊な環境であるということは「義妹生活」というアニメが最近放映されていることからも明白だ。古くは「ママレード・ボーイ」なんてのも朝、子どもが観る時間帯に放映されていたのを覚えている。特殊であるから物語となる。特殊……「特殊な設定」か。

義妹との恋愛云々よりも本当の兄妹での恋愛だとかのほうがよっぽど特殊だけれどもね。でも、その場合って多くの人々は拒否反応の示す。妹とか姉がいる男とかをさ、からかうでしょ?
「お前、妹(姉)と付き合ってんだろ?」
って。

かくいう相方、サスペンダーよしおも妹が二人居るが、全否定するだろう。というかしていた。散々からかったからね。

もし肯定したら気持ち悪いよね。

知っている限りの友人知人は100%否定する。
それは、どんなに社会が多様化しようとも変わらないだろう。

実際の生活

さて、前述したとおり私とタケシとは同じバンドメンバーだ。私はギター、タケシはベースを弾く。他にギターボーカルを務めるヨーヘイ(十七歳) と、私と同い年のドラマーであるコータとの四人編成だった。

意外とバンドメンバー同士っていうのはプライベートで遊ばないというケースが多い。
けれども私、タケシ、ヨーヘイとはよく遊んでいた。

遊びに集まる場所となれば、チチ男ハウスのタケシの部屋だった。

階段を上がって廊下を真っ直ぐに進んで突き当りの左がタケシの部屋、右がモモコの部屋だ。二階は子どもたちのそれぞれの部屋となっていたが、左側が相浦家兄妹の部屋、右側が加藤家兄妹の部屋となっていた。つまり二階に上がって奥へ進めば左右対称となっている。チチ男が意図したのだろう。

私とヨーヘイはよくタケシの部屋に泊まった。酒を飲むことが多かったのでそのまま泊まることも多かった。酒を飲む時、他にも同世代の女の子が居たりすることもあったので、どうせすぐ隣の部屋にいるんだしモモコちゃんも誘いなよって、皆で飲んだりすることも多かった。別に不良少年少女たちの集まりだとかではない。健全な少年少女(私は成人済みであったが……)の遊びである。

……なんだか書いていて、これから陰湿ないじめが始まりやがてはエスカレートしていって最終的にコンクリートで固めたりするとかそういったことが起こるんじゃないかって気がしてきたけれども、全くそんなことはない。

そんなこんなで知り合った私とモモコちゃんとはお付き合いすることになった。
それとなく私(のようなクズに!)に憧れてくれた彼女のほうからそれとなく打診があり、応じた形だった。

結果としてこれが、タケシの義妹ロマンスの可能性の芽を完全に摘み取ったこととなったと思う。少し年上なだけだった私は、年頃の男女が隣の部屋にいるその状況については本当に懸念していた。

どのクチが言う!かと思われるかもしれないが 「アブナイ」 と思っていた。

私がいずれかの親だったとして、互いの子が異性である高校生であった場合に果たして上に書いたように、ひとつ屋根の下に年頃の男女を住まわせるだろうか?

私は今年三十九歳にして子どもはいない。配偶者もいない。バツイチとかではない。ずっと独身である。その独身で寂しい生活を続けている者からのひとつの意見として以下に正直に述べる。

十七歳という年頃の男女を同居させるということには同意出来ない。その子ども同士が血縁関係がない赤の他人である上、年齢が十七歳、いずれも高校二年生。そんな大切な時期だ。間違いが起こっても全く不思議ではない。のではないか?
もし私だったら絶対にそのような状況には置かない。問題が起こる可能性が非常に高いように思えるからだ。
子の問題は親の問題となるでしょう?
それは自分に返ってくるように思えるから。

義妹生活の終わり

私とモモコちゃんはというとお付き合いして半年くらいで別れた。
それから三年後くらいに、彼・彼女の両親は離婚した。

そして、それぞれ別居をはじめて、義理の兄妹となった六人の子どもたちは散り散りとなった。

あくまで私が見かけたひとつのケースに過ぎないけれども、兄とその義妹とのロマンスは全く気配もなく、起きなかった。

むしろちょっとしたロマンスが発生したのは全然関係のない私であった。

そして三年後くらい

私は二十七歳になり、相変わらずバンド活動は続けていた。

相浦タケシはスタジオでのバンド練習を無断で2回休んだことからクビにした。
以降、ほぼ音信不通だ。

その頃、無名のスカバンドでトランペットを吹いていたモモコと私とは再会し、一緒に音楽活動をすることとなった。吹奏楽の名門校の部長だっただけあり人脈が広く、様々な楽器奏者を知り合うことになった。ピアノの腕前も良かったのですごく助かった。

全国あっちこっち移り住み迷走していたサスペンダーよしおもその時期に在籍していたので、彼女を知っているだろう。

人材は非常に多かった。
しかし年齢的に、女性は結婚したり、男性の場合は仕事が更に忙しくなったり転勤したりだとかして流動的だった。
地方だから尚更だと思う。
バンドはメンバーがひとり変わるだけで随分と音が変わるものだからそれに合わせるために結構な練習をしなければならない。
結婚している女性や忙しい男性がそれについていけるか?
……というと、よっぽど音楽が好きでなければついていけない。

最終的にバンドメンバーとして最も信頼できる人物だったのは、彼女だった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です